WEBCOACHでの学習を始めて半年。当初は「cssって何?」「デザインなんてセンスのある人の仕事でしょ」と思っていた私が、今では自力でWebサイトを構成し、コードを書き、一つのプロダクトとして形にできるようになりました。
この半年の努力は、自分でも誇れるものです。しかし、その学習の山を一つ越えた先に待っていたのは、登ってきた山よりもさらに高く、険しい「キャリアの選択」という絶壁でした。
「さて、これからどうやって食べていくか?」
この問いに対して、今の私が抱えている本音と、キャリアカウンセリングで突きつけられた現実、そして最終的にフリーランスという道を選び取った覚悟について、じっくりと綴ってみたいと思います。
理想と現実のギャップ
私が前職を退職した時、心に決めていた譲れない条件がありました。
それは「フルリモート」で働くことです。
家族との時間を大切にしたい、場所を選ばずに働けるスキルを身につけたい。
そんな思いから始まった挑戦でした。
しかし、半年間の学習を終えていざ求人市場に目を向けると、そこには冷徹な現実が横たわっていました。
「妥協」さえも許されない厳しい市場
正社員のWebデザイナーとして、フルリモートで、かつ未経験の30代を採用してくれる企業。
これは、砂漠で一粒のダイヤモンドを探すような作業でした。
たとえ「フルリモート」を少し妥協したとしても、私が自分に許せる条件は「出社は週1未満、かつ自宅からドアtoドアで片道30分圏内」というものです。
しかし、現代の求人票を眺めてみると、そもそもこの「30分圏内」に私の理想とするクリエイティブな環境の企業が存在する確率は極めて低く、存在したとしても「未経験30代」の枠は、輝かしいポートフォリオを持つ20代たちに埋め尽くされています。
30代前半という年齢は、世間一般では「脂の乗った時期」かもしれませんが、未経験の職種においては「教育コストがかかり、かつ将来的な伸び代が20代より短い」とシビアに判断される年齢です。
理想を掲げることは自由ですが、それを市場が受け入れてくれるかどうかは、また別の話なのだと痛感しました。
キャリアカウンセリングで突きつけられた「現実的な正解」
卒業を目前に控えたある日、私はスクールのキャリアカウンセリングを受けました。
そこでプロのカウンセラーから提示されたのは、非常に論理的で、そして私にとっては残酷な「迂回ルート」でした。

すみれさんの場合、フルリモートが絶対に譲れない条件なのであれば、まずはこれまでの職歴を活かせる『Webディレクター』としての入社を目指すのが、最も現実的で成功確率の高い道です。
ディレクター職なら今の年齢や経験もプラスに働きます。
そこでデザイナーとの連携を学び、信頼を築いたあとに、数年かけて社内でデザイナーへの職種転換を人事や上司に相談していく……
それが一番の近道ですよ。
そのアドバイスは、間違いなく100点満点の正解でした。
リスクを最小限に抑え、かつ「フルリモート」という環境を確実に手にするための、大人の戦略です。
「半年間の努力」をどこに置くかという葛藤
カウンセラーの方の言葉を聞きながら、私の頭の中には、この半年間の光景が走馬灯のように駆け巡りました。
夜遅くまでコードが動かずに頭を抱えた夜。
ピクセル単位でデザインを調整し、目が霞むまで画面に向き合った週末。
「コーディングの壁」を突破した時の、あの心震える達成感。

もし今、ディレクターとして入社したら、この半年間必死に学んできたデザインやコーディングのスキルを、すぐにはフルで活かせないのか……?
論理的な正解を受け入れようとする自分と、作り手としてのプライドが叫んでいる自分が激しくぶつかり合いました。
もちろん、ディレクターの仕事が素晴らしいことは知っています。
でも、今の私がなりたかったのは「作る人を支える人」ではなく、「自分の手で作る人」だったのです。
このアドバイスを受けた時、私は初めて自分の「本気度」に気づかされました。
私は単に働き方を変えたかっただけではない。クリエイターとして、自分の腕一本で勝負できる人間になりたかったのだと。
ライフプランの天秤
働き方を考える上で、避けて通れないのがライフプランの話です。
私は今、30代前半。人生において、最も変化が激しい時期に差しかかっています。
「安定」を選ぶ未来への想像
もし今、私に子供がいたら、私の選択は180度違っていたでしょう。
自分のやりたいことや憧れよりも、家族を守るための「安定」を最優先にしていたはずです。給与が確実に振り込まれ、福利厚生が整った会社員という身分を、何よりも大切にしていたでしょう。
たとえそれが、希望していた職種とは少し違ったとしても。
それは決して「妥協」ではなく、家族に対する「愛」であり、責任感です。
将来の私がもし母になっていたとしたら、私は迷わず、堅実な道を選んでいる自分を誇りに思うでしょう。
今だからできる「自分勝手な賭け」
でも、子供がいない「今」なら、まだ自分のために賭けることができる。
(もちろん夫と話し合った上で)自分自身の納得感を追求できるこの時間は、人生の中でそう長くは続きません。ここで「現実的な正解」を選んで、安全な道に落ち着いてしまったら、数年後の私はきっと後悔します。
「あの時、もっとわがままに自分の可能性を試していれば」
「厳しいと分かっていても、作り手として勝負していれば」
そんな後悔を抱えながら生きていくのは、今の私にとっては「失敗」と同じことのように思えました。
将来、もしライフイベントによって立ち止まる時が来たとしても、その時に「私はあの時、やりきった」と思える自分でありたい。
子供を持つことに対しても、今はまだ複雑な心境を抱えることもあります。
だからこそ、今この瞬間を、自分の人生をドライブさせるための時間に充てたい。
これは、わがままかもしれませんが、今の私に許された最大の特権なのだと感じています。
「頑張りの評価」を市場に委ねる
私がフリーランスという、不安定極まりない道に強く惹かれた理由は、働き方の自由度だけではありません。もっと根源的な「評価に対する誠実さ」にあります。
会社員時代の「モヤモヤ」の正体
会社員として働いていた頃、私はどこかで常に違和感を抱えていました。
「この仕事は誰の役に立っているんだろう?」
「私の頑張りは、どうしてこの程度の評価なんだろう?」
あるいは、「どうしてあの人が自分より評価されているんだろう?」
会社の評価制度というものは、会社の業績や所属部署の守備範囲などといった、自分自身の努力ではコントロールできない変数に左右されます。
自分の成長を、自分以外の誰かに採点される。そのシステムに、私は少し疲れてしまっていたのかもしれません。
「納品=売上」という、残酷で美しいルール
フリーランスの世界は、非常にシンプルです。「成果物を出す(納品)」=「売上(利益)」
良いものを作れば選ばれ、期待に応えられなければ次はありません。言い訳は通用しません。
この残酷なまでの分かりやすさが、今の私にはとても誠実で、心地よいものに感じられたのです。
自分のスキルが、市場においていくらの価値があるのか。
自分の提案が、クライアントの課題をどれだけ解決できたのか。
自分の頑張りの結果が、ダイレクトに売上という数字に跳ね返ってくる。誰かの主観的な評価ではなく、市場という海で自分の価値が試される。
そのシビアな環境こそが、私を最も成長させてくれる場所だという確信がありました。
「安定」は、自分の外側にある制度に頼ることではなく、「どこでも生きていける自分」を作ることによって手に入れる。それが、私の考える真の自立です。
自由を支える「数年間の泥臭い踏ん張り」の覚悟
もちろん、フリーランスになれば明日からバラ色の自由な生活が待っているとは微塵も思っていません。
理想の裏にあるコスト
「スキルが上がれば稼働時間を減らして、家族や自分の時間を増やせる」
それは確かにフリーランスの魅力ですが、そのステージに到達するためには、最初の数年間は誰よりも、そして会社員時代よりも泥臭く、必死に動かなければならないことを覚悟しています。
仕事が途切れる不安、自分で自分を管理し続ける孤独、そして全ての責任が自分に降りかかってくる重圧。現実はきっと、私が今想像している数倍は甘くないでしょう。
それでも、「時間の主導権を自分の手に取り戻す」という目標のためなら、私はそのコストを支払う準備ができています。
誰かに決められた場所で、誰かに決められた時間に働くのではなく、自分でリスクを取り、自分で決めた時間に、自分の納得いく場所で働く。
そのための「自由」を勝ち取るための戦いに、ようやくスタートラインに立てたのだと感じています。
本を片手に、ビジネスの海へ
そう決意を固めてからは、学習の質が大きく変わりました。
これまでは「Photoshopの使い方は?」「jQueryの書き方は?」と、技術面ばかりを追いかけていましたが、今はそれと並行して、「フリーランスの開業準備」「青色申告と税金」「クライアントワークの契約と法律」といった本が私のデスクに並んでいます。
「どう作るか」だけでなく、「どう事業として継続させるか」。
いよいよ、一人の事業主として、プロの海を泳ぎ始めるのだという実感が湧いています。
12月からはWEBCOACHの「卒業後サポートコース」への移行が決まりました。メインの半年間は終わりましたが、私の本当の挑戦はここからです。
キャリアカウンセリングでもらった「現実的な迂回ルート」をあえて選ばず、厳しいと分かっている「デザイナー直通ルート」を、フリーランスという形で突き進むことにしました。
「焦らず、でも止まらず。納得感のある道へ。」
30代からの再出発。
遅すぎることはないと自分に言い聞かせ、一歩ずつ、着実に実績を積み上げていきたいと思います。
この挑戦の先にある景色を、いつか笑って振り返れる日のために。
今の自分の選択を、正解にしていけるのは自分しかいないのだから。

